劇場、音楽堂等の活性化に関する法律
(平成二十四年六月二十七日法律第四十九号)



 前文
 第一章 総則(第一条―第九条)
 第二章 基本的施策(第十条―第十六条)
 附則

  我が国においては、劇場、音楽堂等をはじめとする文化的基盤については、それぞれの時代の変化により変遷を遂げながらも、国民のたゆまぬ努力により、地域の特性に応じて整備が進められてきた。
 劇場、音楽堂等は、文化芸術を継承し、創造し、及び発信する場であり、人々が集い、人々に感動と希望をもたらし、人々の創造性を育み、人々が共に生きる絆を形成するための地域の文化拠点である。また、劇場、音楽堂等は、個人の年齢若しくは性別又は個人を取り巻く社会的状況等にかかわりなく、全ての国民が、潤いと誇りを感じることのできる心豊かな生活を実現するための場として機能しなくてはならない。その意味で、劇場、音楽堂等は、常に活力ある社会を構築するための大きな役割を担っている。
 さらに現代社会においては、劇場、音楽堂等は、人々の共感と参加を得ることにより「新しい広場」として、地域コミュニティの創造と再生を通じて、地域の発展を支える機能も期待されている。また、劇場、音楽堂等は、国際化が進む中では、国際文化交流の円滑化を図り、国際社会の発展に寄与する「世界への窓」にもなることが望まれる。
 このように、劇場、音楽堂等は、国民の生活においていわば公共財ともいうべき存在である。
 これに加え、劇場、音楽堂等で創られ、伝えられてきた実演芸術は、無形の文化遺産でもあり、これを守り、育てていくとともに、このような実演芸術を創り続けていくことは、今を生きる世代の責務とも言える。
 我が国の劇場、音楽堂等については、これまで主に、施設の整備が先行して進められてきたが、今後は、そこにおいて行われる実演芸術に関する活動や、劇場、音楽堂等の事業を行うために必要な人材の養成等を強化していく必要がある。また、実演芸術に関する活動を行う団体の活動拠点が大都市圏に集中しており、地方においては、多彩な実演芸術に触れる機会が相対的に少ない状況が固定化している現状も改善していかなければならない。
 こうした劇場、音楽堂等を巡る課題を克服するためには、とりわけ、個人を含め社会全体が文化芸術の担い手であることについて国民に認識されるように、劇場、音楽堂等を設置し、又は運営する者、実演芸術に関する活動を行う団体及び芸術家、国及び地方公共団体、教育機関等が相互に連携協力して取り組む必要がある。
 また、文化芸術の特質を踏まえ、国及び地方公共団体が劇場、音楽堂等に関する施策を講ずるに当たっては、短期的な経済効率性を一律に求めるのではなく、長期的かつ継続的に行うよう配慮する必要がある。
 ここに、このような視点に立ち、文化芸術振興基本法 の基本理念にのっとり、劇場、音楽堂等の役割を明らかにし、将来にわたって、劇場、音楽堂等がその役割を果たすための施策を総合的に推進し、心豊かな国民生活及び活力ある地域社会の実現並びに国際社会の調和ある発展を期するため、この法律を制定する。

   第一章 総則

(目的)
第一条  この法律は、文化芸術振興基本法 (平成十三年法律第百四十八号)の基本理念にのっとり、劇場、音楽堂等の活性化を図ることにより、我が国の実演芸術の水準の向上等を通じて実演芸術の振興を図るため、劇場、音楽堂等の事業、関係者並びに国及び地方公共団体の役割、基本的施策等を定め、もって心豊かな国民生活及び活力ある地域社会の実現並びに国際社会の調和ある発展に寄与することを目的とする。

(定義)
第二条  この法律において「劇場、音楽堂等」とは、文化芸術に関する活動を行うための施設及びその施設の運営に係る人的体制により構成されるもののうち、その有する創意と知見をもって実演芸術の公演を企画し、又は行うこと等により、これを一般公衆に鑑賞させることを目的とするもの(他の施設と一体的に設置されている場合を含み、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律 (昭和二十三年法律第百二十二号)第二条第一項 に規定する風俗営業又は同条第五項 に規定する性風俗関連特殊営業を行うものを除く。)をいう。
 この法律において「実演芸術」とは、実演により表現される音楽、舞踊、演劇、伝統芸能、演芸その他の芸術及び芸能をいう。

(劇場、音楽堂等の事業)
第三条  劇場、音楽堂等の事業は、おおむね次に掲げるものとする。
 実演芸術の公演を企画し、又は行うこと。
 実演芸術の公演又は発表を行う者の利用に供すること。
 実演芸術に関する普及啓発を行うこと。
 他の劇場、音楽堂等その他の関係機関等と連携した取組を行うこと。
 実演芸術に係る国際的な交流を行うこと。
 実演芸術に関する調査研究、資料の収集及び情報の提供を行うこと。
 前各号に掲げる事業の実施に必要な人材の養成を行うこと。
 前各号に掲げるもののほか、地域社会の絆の維持及び強化を図るとともに、共生社会の実現に資するための事業を行うこと。

(劇場、音楽堂等を設置し、又は運営する者の役割)
第四条  劇場、音楽堂等を設置し、又は運営する者は、劇場、音楽堂等の事業(前条に規定する劇場、音楽堂等の事業をいう。以下同じ。)を、それぞれその実情を踏まえつつ、自主的かつ主体的に行うことを通じて、実演芸術の水準の向上等に積極的な役割を果たすよう努めるものとする。

(実演芸術団体等の役割)
第五条  実演芸術に関する活動を行う団体及び芸術家(以下「実演芸術団体等」という。)は、それぞれその実情を踏まえつつ、自主的かつ主体的に、実演芸術に関する活動の充実を図るとともに、劇場、音楽堂等の事業に協力し、実演芸術の水準の向上等に積極的な役割を果たすよう努めるものとする。

(国の役割)
第六条  国は、この法律の目的を達成するため、劇場、音楽堂等に係る環境の整備その他の必要な施策を総合的に策定し、及び実施する役割を果たすよう努めるものとする。

(地方公共団体の役割)
第七条  地方公共団体は、この法律の目的を達成するため、自主的かつ主体的に、その地域の特性に応じた施策を策定し、及び当該地方公共団体の区域内の劇場、音楽堂等を積極的に活用しつつ実施する役割を果たすよう努めるものとする。

(劇場、音楽堂等の関係者等の相互の連携及び協力等)
第八条  劇場、音楽堂等を設置し、又は運営する者、実演芸術団体等その他の関係者(次項及び第十六条第二項において「劇場、音楽堂等の関係者」という。)並びに国及び地方公共団体は、この法律の目的を達成するため、相互に連携を図りながら協力するよう努めるものとする。
 国及び地方公共団体は、この法律に基づく施策を策定し、及び実施するに当たっては、劇場、音楽堂等の関係者の自主性を尊重するものとする。

(国及び地方公共団体の措置)
第九条  国及び地方公共団体は、この法律の目的を達成するため、必要な助言、情報の提供、財政上、金融上及び税制上の措置その他の措置を講ずるよう努めるものとする。

   第二章 基本的施策

(国際的に高い水準の実演芸術の振興等)
第十条  国は、国際的に高い水準の実演芸術の振興並びに我が国にとって歴史上又は芸術上価値が高い実演芸術の継承及び発展を図るため、次に掲げる施策その他必要な施策を講ずるものとする。
 独立行政法人を通じて劇場、音楽堂等の事業を行うこと。
 地方公共団体が講ずる劇場、音楽堂等に関する施策、劇場、音楽堂等を設置し、又は運営する民間事業者(次項及び第十二条第二項において「民間事業者」という。)が行う劇場、音楽堂等の事業及び実演芸術団体等が劇場、音楽堂等において行う実演芸術に関する活動への支援を行うこと。
 前項に定めるもののほか、国は、地方公共団体及び民間事業者に対し、その求めに応じて、我が国の実演芸術の水準の向上に資する事業を行うために必要な知識又は技術等の提供に努めるものとする。

(国際的な交流の促進)
第十一条  国は、外国の多彩な実演芸術の鑑賞の機会が国民に提供されるようにするとともに、我が国の実演芸術の海外への発信を促進するため、我が国の劇場、音楽堂等が行う国際的な交流への支援その他の必要な施策を講ずるものとする。

(地域における実演芸術の振興)
第十二条  地方公共団体は、地域の特性に応じて当該地域における実演芸術の振興を図るため、劇場、音楽堂等の事業の実施その他の必要な施策を講ずるものとする。
 国は、国民がその居住する地域にかかわらず等しく、実演芸術を鑑賞し、これに参加し、又はこれを創造することができるよう、前項の規定に基づき地方公共団体が講ずる施策、民間事業者が行う劇場、音楽堂等の事業及び実演芸術団体等が劇場、音楽堂等において行う実演芸術に関する活動への支援その他の必要な施策を講ずるものとする。

(人材の養成及び確保等)
第十三条  国及び地方公共団体は、制作者、技術者、経営者、実演家その他の劇場、音楽堂等の事業を行うために必要な専門的能力を有する者を養成し、及び確保するとともに、劇場、音楽堂等の職員の資質の向上を図るため、劇場、音楽堂等と大学等との連携及び協力の促進、研修の実施その他の必要な施策を講ずるものとする。

(国民の関心と理解の増進)
第十四条  国及び地方公共団体は、劇場、音楽堂等において行われる実演芸術に対する国民の関心と理解を深めるため、教育活動及び啓発活動の実施その他の必要な施策を講ずるものとする。
 国及び地方公共団体は、この法律に基づく施策を実施するに当たっては、国民の理解を得るよう努めるものとする。

(学校教育との連携)
第十五条  国及び地方公共団体は、学校教育において、実演芸術を鑑賞し、又はこれに参加することができるよう、これらの機会の提供その他の必要な施策を講ずるものとする。

(劇場、音楽堂等の事業の活性化に関する指針)
第十六条  文部科学大臣は、劇場、音楽堂等を設置し、又は運営する者が行う劇場、音楽堂等の事業の活性化のための取組に関する指針を定めることができる。
 文部科学大臣は、前項の指針を定め、又はこれを変更しようとするときは、あらかじめ、劇場、音楽堂等の関係者の意見を聴くものとする。
 文部科学大臣は、第一項の指針を定め、又はこれを変更したときは、遅滞なく、これを公表するものとする。

   附 則

(施行期日)
 この法律は、公布の日から施行する。
(検討)
 政府は、この法律の施行後適当な時期において、この法律の施行の状況を勘案し、必要があると認めるときは、劇場、音楽堂等の事業及びその活性化による実演芸術の振興の在り方について総合的に検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。